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包丁の選び方
包丁を選ぶ基準
包丁を選ぶ基準は、以下の4つです。
①鋼材
②製法
③デザイン
④持った時のバランス
鋼材と製法に関しては、きちんとした知識を持つことで、自分の技量に見合った包丁を選ぶことができます。
次に包丁を買うときにも、「もっと切れ味がいいものにしよう」とか、「もう少し、長切れする鋼材がいいなぁ」とか、比較しやすくなります。
包丁屋とのやりとりも、より楽しくなるでしょう。
また、鋼材や製法の違いを知ることで、それぞれの包丁の、仕事のできる幅や、自分との相性(研ぎ方などで変わる)も発見できるはずです。
いい包丁ってどんな包丁?
良い包丁屋は、“いい包丁”を納めることができます。
肉眼でもはっきりとわかるような、歪みやヒビのある包丁はもちろん論外として、いったい、“いい包丁”とは何でしょうか?
それはズバリ、
1.切れ味が良い
2.切れ味が持続する
3.研ぎやすい
この3点です。
しかし、この3点をすべて完璧に満たす包丁は残念ながらありません。
包丁の長所は、短所と表裏一体だからです。
例えば、
一般的には、切れ味が増すほどに、堅く、研ぐのが難しくなります。
扱い方によっては、刃こぼれもしやすくなります。
また、研ぎやすいほどに、耐摩耗性が劣ります。
切れ味の持続性が落ちるということです。
つまり、“いい包丁”とは、料理人のレベルによって変化するということです。
わかりやすい例えでいうと、、
調理の世界に入ったばかりの新人さんが、いきなり水本焼の包丁を使うのは、
免許を取ったばかりのドライバーさんが、いきなりスポーツカーを運転するようなもの。
そして、軽自動車には軽自動車の性能が、スポーツカーにはスポーツカーの性能があるように、
包丁もまた、鋼材や製造によって、できる仕事の幅が違ってきます。
道具を使いこなすには、経験が必要になるのです。
だからこそ、その時の自分の技術に合った、上記の3つのバランスが一番の良いものを選ぶということです。
それが最も包丁の性能を引き出すことができ、「いい包丁」となるのです。
この点は、実際、見た目ではわかりません。
鋼材名や、鍛造、焼入れ方法などの違いで判断します。
その他、外見から判断できるものとしては、
・重量はどうか(重すぎたり、軽すぎたりしないか)
・バランス(重心の位置)はどうか
・柄はまっすぐに入っているか
・峰やマチの部分の角が処理されているか
などがあります。
毎日使う道具なので、持った時のバランス感覚が悪かったり、柄がゆがんで入っていたりすると、ストレスになってしまいます。
ですので、最後はやはり、手にとって確認することが大切です。
ぜひベストな包丁を見つけてください!
鋼材の違いを知ろう
包丁選びのメインイベントはやはり、「鋼材」選びです。
まず一番大きなポイントとなるのは、
「錆びるタイプ」 か 「錆びに強いタイプ」かです。
最近では、錆びないタイプの鋼材の開発が進んでおり、切れ味なども改良されてきたため、和食の調理場でも、錆びないタイプの包丁を見かけることが多くなりました。
主な刃物用鋼材の種類としては、
①「炭素鋼」・・・サビるタイプ。鉄鉱石・砂鉄から製鉄した鉄に炭素を加えて鍛えたもの。
②「ステンレス鋼(合金鋼)」・・・炭素鋼にクロムを加えてサビに強くしたもの。
があります。
注:青鋼はクロム、タングステンを含むので厳密には合金鋼なのですが、低合金のため「鋼」に分類します。
チタンやセラミック、プラスチックといった、錆びない系もありますが、本職用では、ほとんど使われておりません。
主な刃物用鋼材
炭素鋼
・SK材
・黄紙
・白鋼=白1鋼(白紙1号)、白2鋼(白紙2号)、白3鋼(白紙3号)
・青鋼=青1鋼(青紙1号)、青2鋼(青紙2号)
ステンレス鋼
・銀3鋼(銀紙3号)
・銀1鋼(銀紙1号)
・V金ゴールド(V金1号)
・V金10号
・AUS鋼(6A、8A、10A)
・モリブデン鋼
・スウェーデンステンレス鋼
・ダマスカス鋼
・ATS-34(和包丁の製造終了・在庫のみ)
・ZDP189(和包丁の製造終了・在庫のみ)
特殊鋼
などがあります。
青紙スーパー、カウリXは、包丁用としては近年あまり使用されないので省きました。
たくさんあって、頭がゴチャゴチャしちゃいますよね。
まずは、「包丁には、錆びるタイプと錆びないタイプがあって、鋼材の種類はたくさんあるのだなぁ」ということでOKです!
次に、それぞれの鋼材の特徴を見ていきましょう。
鋼材の特徴
ハガネの鋼材について
現在、このタイプの鋼材の主流は、日立金属㈱が製造するヤスキハガネ(安来鋼)です。
ヤスキハガネは、かつて日本刀に使用された和鋼(原料は砂鉄)から開発されました。
ヤスキという地名が付いているのは、日立金属㈱が、島根県の安来市に安来工場をつくり、そこで鋼を造り始めたのが由来です。
安来といえば、あの玉鋼(日本刀に使われる)を精錬する「たたら製法」で有名ですよね。
日立金属㈱さんが、その伝統を受け継いで作ったヤスキハガネは、現在、高級和包丁用鋼材の主役です。
SK材 | 家庭用包丁など低価格の包丁に使用 |
黄鋼(黄紙) | 全部が砂鉄系原料の白鋼に対し、半分砂鉄系が黄紙。 白紙より不純物が多い。2号と3号がある。 |
白鋼(白紙) | 純度の高い砂鉄が原料です。成分としては、鉄、炭素に微量の不純物(リン・イオウ等)が混ざっている。シャープな切れ味を持ち、和包丁の基本となる鋼材。<白1鋼(白紙1号)>白紙2号にさらに炭素量を増やしたのが白1。すべての鋼材の中で、一番鋭い切れ味を出しますが、製法が難しく、この鋼材を扱える職人はほんの数人。そのため、非常に高価で、希少価値あり。 <白2鋼(白紙2号>黄紙2号から、さらに不純物を取り除いたのが白紙2号。切れ味が良く、料理人からの評価も高い。フグ引など、切れ味重視の包丁におすすめ。 <白3鋼(白紙3号>一般的な白鋼。白2鋼から、炭素量を減らし、靭性(粘り強さ)を出した分、切れ味は少し甘くなる。比較的やわらかく、研ぎやすいので、最初の1本としてもおすすめ。 |
青鋼(青紙) | 白2鋼にクロームとタングステンを加えた低合金鋼。摩耗しにくく、切れ味が長持ちする包丁になる。粘りがあるので、白鋼に比べ欠けずらく、人気の高い鋼材。<青1鋼>青紙2号に炭素量を加えたもの。非常に硬い。白1鋼と同様、高価で希少価値あり。研ぎが難しいので、ベテラン向き。 <青2鋼>安定した切れ味と、刃持ちの良さで、どの料理人からも非常に評判が高い。包丁屋としても、おすすめの鋼材。 |
★日立金属HPの「高級刃物鋼カタログ」参照
ステンレス鋼材について
人類の歴史の中で、「錆びない金属を作る」ということは大きな大きな課題でしたが、1913年(第一次世界大戦前)、イギリスのブレアリーが、鉄に13%のクロームと、0.3%の炭素を加えた、“マルテンサイトステンレス鋼”を発明しました。それから約100年を経た現在、新たに開発される包丁のほとんどは、ステンレス(錆びずらい)鋼材を使用しています。
(注:刃物用としての「ステンレス鋼」とは、クロームを12%以上含んでいることを意味します)
これまで、ステンレス包丁というと、炭素量が少ないため、硬度が低く、切れないという印象が強かったのですが、最近では、高炭素での開発も進み、切れ味も改良され、炭素鋼(さびるタイプ)以上の硬度を持つ鋼材まで出てきました。
酢を使用するお寿司屋さんはもちろん、日本料理店や居酒屋の料理人さんからも、ステンレス包丁の注文が急増しています。手入れが楽というのが一番大きな理由ですが、衛生面で安心という面も、錆びない包丁が好まる要因のようです。
包丁で使用される主なステンレス鋼についていくつかご紹介します。
AUS鋼 | 愛知製鋼で作られているステンレス鋼で、AUS-6・8・10(6A、8A、10A)があり、低価格で、研ぎやすく扱いやすい |
V金ゴールド | V金1号ともいう。武生製鋼の13クロームステンレス鋼。 切れ味は比較的良いが研磨や刃付けが難しい。 |
V金10号 | 同じく武生製鋼の生産。硬度60以上。 研ぎやすく粘りがあるが、加工が難しくk(固く)高価。 |
銀三鋼(銀3号) | 通称「銀三」。日立金属が生産。銀紙1号に炭素を多く加えたもので、 硬度59~61と炭素鋼並の硬さと切れ味を出す。錆びない和包丁として長年愛用されている。 |
ATS鋼 | 銀三の改良型。ナイフの優秀鋼材として日立金属が開発。高純度の鋼に、クロームとカーボンをを多く含有させ、かなり硬く、切れ味も良い。刃持ちの良さ、粘り強さ、錆びに対する強さと、和秒長に求められる様々な要素をバランス良く備える。 |
ZDP鋼 | 日立金属が生産する最強の粉末鋼。硬度は67以上で、最高硬度を誇る。硬度、粘り、磨耗性、腐食耐性において、今ある刃物用鋼材としては究極の特性を持つ。ただし、あまりに硬度なため、普通の砥石で研ぐことは厳しい。値段もかなり高価。 |
料理人の方が良く使われる和包丁の鋼材を、技術レベルと合わせて並べ替えると次のようになります。
●初心者クラス
白3鋼、白2鋼 / AUS鋼
●中堅クラス
白2鋼、青2鋼 / 銀3鋼、V金10号、ATS鋼
●熟練クラス
白1鋼、青1鋼 / 銀3鋼、V金10号、ATS鋼、ZDP鋼
※あくまで私の扱っている商品からの実感ですので、参考程度としてお考えください。
包丁の産地
大阪・堺
●特色
堺の包丁の全国シェアは7%程度ですが、本職用(プロ用)では90%以上を誇り、料理人の間では「包丁といえば堺」と知られています。
分業体制で作られるのが特色で、「火造り鍛造」「刃付け」「柄付け」のそれぞれの専門業者の間を巡って完成します。これにより、同業者間の切磋琢磨進み、優れた包丁が生み出されました。
堺のお家芸といわれる伝統の「わかし接け」は、1000度以上まで熱せられ、地金に、硼酸、硼砂、酸化鉄などを使って鋼を張り合わせていく技法です。
●歴史
堺に鍛造技術が伝わったのは、5世紀の古墳造営の時期とされています。仁徳天皇が、外国に出征していた兵士の失業対策として、灌漑利用も兼ねた御陵づくりを計画し、鋤や鍬などの鉄製道具を作る鍛冶屋を日本中から呼びあつめたと伝えられています。
15世紀(室町時代中期)には、刀工を祖とする包丁鍛治の集団が加賀の国(現在の石川県)から移住し、鍛治技術が発達しました。
生産拡大の契機となったのは16世紀(室町時代後期)で、当時の堺は、南蛮貿易の港として繁栄していました。天文12年(1543年)、ポルトガル人によって鉄砲とたばこが輸入されると、鉄砲の産地として名をはせるほか、たばこの葉を刻むための「煙草包丁」の製造が盛んになりました。
堺製の煙草包丁は評判がよく、江戸幕府は「堺極(さかいきわめ)」という刻印を入れて専売品とし、諸国大名に高く売って財源にしたそうです。
また江戸中期の元禄時代には、堺の鍛治職人が片刃の包丁(出刃)を開発し、現在使われている包丁のほぼ全種類も出揃いました。
明治時代になると、たばこの生産が機械化され、煙草包丁が不要となり、職人達は料理用の包丁を作りはじめて現在に至ります。
■参考文献・資料
『砥石と包丁』柴田書店
『堺打刃物を語る』堺HAMONOミュージアム
「堺刃物商工業協同組合連合会HP~堺刃物について」
「堺観光ガイド 世界が注目する「堺の刃物の魅力」
ーーーーーー以下順次掲載ーーーーーー