■和包丁とは

包丁は料理をするための「道具」です。
中でも、日本刀をルーツとする和包丁は、鋭い切れ味が特徴です。
一般的に洋包丁と和包丁の違いは、洋包丁が両刃で、和包丁が片刃であることです。

この片刃を特徴とする和包丁は、「切る文化」を日本の料理に与え、ともに発展してきました。
使用する目的によって、刺身包丁、出刃包丁、薄刃包丁、ハモ切包丁など、様々な種類・形態のものが作られているのも特徴です。
(詳しくは「包丁の種類」のページをご覧ください)
このページでは、和包丁に関するさまざまな知識をお伝えしていきます。

片刃と両刃

包丁には大きく分けて「片刃」「両刃(もろ刃)」の二種類の刃があります。
片側にしか刃がついていないのが片刃、左右両側に刃がついているのが両刃(もろ刃)です。
★画像添付

片刃の包丁には、鎬(しのぎ)の線があるのが特徴です。
食材を切った時に、断面の組織細胞を壊さないめ、切口に艶が出て美しく、旨味を閉じ込めることができます。
また、切った食材が包丁についてこないため、きざむ動作が素早くできます。

片刃の包丁は、切り下ろした時に刃先が左側に切れ込むため、最初は多少のコツがいります。
プロ用の料理人が使う包丁はほぼ片刃で、価格は鋼材や製造過程の違いにより数千円という安価なものから、数十万円もするあ高価なものまで様々です。

一方、両刃の包丁は、家庭で使う三徳包丁のように、左右の刃の角度が同じものをいいます。
片刃の包丁よりも刃の強度が高く、左右対称な刃のため、力が均等に入り、誰でも簡単に扱うことができます。
また、右利きでも左利きでも同じように使えます。

最後に片刃と両刃の違いを簡単に記述します。

【片刃】
・切れ味が良い
・食材の細胞を壊しにくい
・様々な形がある
・右利き用、左利き用がる
・価格はピンキリ

【両刃】
・片刃よりも強度がある
・誰でも扱いやすく、利き手を選ばない
・まっすぐ切れる
・比較的安価

「引き算」の料理

一般的に、西洋料理や中国料理は“味の足し算”、和食は“味の引き算”だと言われています。洋食は、食材に味を加えていくことで美味しさを創り出します。

例えば、フランス料理は、素材の香り出しや焼き加減などの高度な調理法に加え、長時間かけて作ったソースやスープでハーモニーを楽しみます。中国料理は、炒め方ひとつとっても10種類位の技法があり、さらに調味料で変化を加えていきます。どちらも、素材に対して外からの旨みを添加する料理です。

他方、日本料理は、自然の素材の味を殺さないようにシンプルに調理されます。素材の味を最大限に生かすため、強い香辛料などはほぼ使いません。切り口にも繊細なまでにこだわります。そのために、鋭い切れ味の片刃包丁が必要なのです。

「切る」と「見せる」

包丁の登場により、それまで焼くことや煮ることを中心に発展してきた料理が、素材を切ることで新しい味を創造できるようになりました。さらに、“切る”と“見せる”という伝統も産まれました。

「刺身」はまさに、“切る”と“見せる”が基本の日本独自の調理法です。切り方や並べ方を工夫し、作法や器とともに披露して強調します。この伝統は、すでに平安時代には確立していたといいます。

食事そのものに儀礼的な意味合いを持っていた貴族社会では、“切る”と“見せる”は「神に見せる」という行為でもあり、神事的や芸能的な面も強くもっていたのです。

食材を美しく切るためには、包丁の重みも重要になります。刺身などは、重みを利用しながら、素材の細胞をつぶさないように、スーッと静かに引いて切ります。軽い包丁では力を入れないと切れないため、グイグイと押し切りすることになります。
(※ただし最近の包丁は、素材の性能があがり切れ味も向上したため、昔の包丁に比べて軽いものも増えました)

料理人の魂が宿る包丁

料理人にとって、特に修業時代は厳しいものであったりします。職場の決まりごとや人間関係、調理の技術や食材の知識の習得、お客さまへの応対、そして長時間労働。モチベーションを維持できずに、料理人自体をやめてしまう方も多いのが現状です。

そんな中で、包丁はともに成長していく相棒となります。

基本的に、自分の包丁は自分で研ぐのが当たり前となっています。包丁には使う人のクセが乗り移っているので、他の人が研いだりすると、刃のつき方が変わってしまって使いづらくなるからです。

また、どんな包丁を使っているか、どんな使い方をしているかで、料理人としての器量を推測できたりします。どんなに立派な口上を述べたとしても、包丁の刃先がまん丸だったり、曲がっていたりしたら、一発でほどが知れてしまうのです。

例えば、乗り物には、電動バイクから軽自動車、スーパーカーまで性能に違いがあるように、和包丁にも様々なランクがあって、自分の環境や技術の向上に合わせて持つべき包丁も変化していきます。

料理人にとって、包丁を研ぐ時間はとても大事な時間となります。心を静かに落ち着かせたり、新しい料理について考えたり、そんな時間をもつ中で、ふと何かひらめいたりするものです。

包丁には、料理人の魂が宿っています。

以下、京都吉兆の総料理長、徳岡邦夫さんの言葉です。

「『良い包丁がなければ料理はできない』。極論かもしれませんが、真実を突いている言葉だと思います。和洋中限らず、料理人にとっての包丁は命。自分の腕を伝える手段であるのですから、そのコンディションには最新の注意を払っておきたいものです。そのためにはも、包丁を研ぐという技術はぜひ身につけておいてください。
~中略~
包丁には料理人としての思い出がいっぱいに詰まります。師匠から譲り受けたもの、初めて自分で金を出して購入したもの・・・など、さまざまです。そんな自分の一本だからこそ、自分で責任をもって研ぐ。包丁がベストの状態で調理ができるように、念を入れてメンテナンスをしてあげる。」

「クニオの料理事典004研ぐ」(2008年)
(現在こちらのサイトは京都吉兆ホームページからのリンクは切れているようです)

 

~~~以下、順次公開予定~~~

 

■和包丁の陰と陽

▶包丁の語源

■包丁さばき用語