包丁の刀身に、渦巻きや木目状の縞紋様がついたものがあります。
ダマスカス包丁、もう一つが墨流し包丁です。
今回は、ダマスカス包丁について。

ダマスカス鋼の波紋

独特な紋様とエキゾチックなネーミングから、かっぱ橋やネット通販界隈では非常に人気のダマスカス鋼。

実は「ダマスカス鋼」といっても、本物のダマスカス鋼(古代インドのウーツ鋼)ではなく、異種金属を多層に重ね合わせてダマスカス鋼に似せた波紋を出す「積層鋼材」(クラッド鋼)となります。

つまり、「ダマスカス模様」という言い方が適切です。

「積層鋼材」は、16層、25層、32層、33層、43層、64層、65層、67層・・・といった多様な種類が作られています。本来は鍛治仕事で鋼材を何回も折り合わせることで波線の層を作りますが、手間もかかるため、現在では、すでに鋼材メーカーで層になった「利器材」を仕入れて作るものが大部分です。

芯材には、V金10号やAUS10などが使われ、芯材以外の部分には、熱処理しても硬化しない軟鉄やニッケル鋼、スチールなどが用いられます(割込包丁と同じ作りです)。
※芯材とは=食材を切る部分の金属のこと

ダマスカス鋼の魅力

「ダマスカス鋼=切れ味が良い」というイメージがありますが、これは芯材に高級刃物鋼のV金10号などを使っている場合が多いので切れる、ということで、マダラ紋様とは関係ありません。むしろ、層数が増えるほど製造コストがかかるのと、厚みがでて抜けが悪くなってしまうため、それなら、V金10号の一枚ものの方が良いです。

しかし、何といってもダマスカスの魅力は所有感を満たしてくれるところ。
刃物屋としても、売りやすく、高く売れるという面があります。

最近では、コアレスダマスカスといって、V金10号、5号、2号などを重ね合わせて一枚の鋼材にしたものが出ています。コア(芯材)がレス(ない)なので、刃先まで積層模様が出ます(研ぐと消えるとのこと)が、まだ加工が難しいようでお値段も高めです。

古代のウーツ鋼

ちなみに、本物のダマスカス鋼は、古代インドで作られた「ウーツ鋼」を指し、シリアのダマスカス地方で刀剣に使用されていたことからこの呼び名がついたようです。この本家ダマスカス鋼は、超炭素鋼で切れ味もよく、錆びにくく、折れにくく、さらには自然とマダラ模様が出るという伝説の鋼材ですが、すでに製法は失われてしまいました。
※このマダラ模様は、溶解させた鋳鉄を坩堝(るつぼ)の中で凝固させた際に、融点の違う鋼が別々に結晶化したことによるもの、とか、溶けた金属の中に含まれている不純物のムラだった、といわれています。

ダマスカスの模様を浮かびあがらせる方法

ダマスカス模様の出し方は大きく2パターンに分かれます。
「ブラスト処理」「エッチング処理」です。

「ブラスト処理」は、重ね合わせた鋼材の硬度差を利用して、表面にわずかなな凹凸を生み出し模様を作る方法です。「サンドブラスト」とか、「ショットブラスト」ともいいます。コンプレッサーを使用して、非常に細かい砂やガラスビーズなどを包丁の表面に高圧で吹き付けることで、硬度の違いによる模様が浮き上がってきます。この方法は、和包丁の化粧研ぎに使われるもともあります。

※画像はイメージです

「エッチング処理」は、2種類の金属の腐食の違いを利用します。
主に酸性の薬品を使用し、温度や濃度や時間によって濃淡が変化します。
模様のコントラストが強いものは、このエッチング処理のものが多いです。

※画像はイメージです

関のナイフメーカー「ジー・サカイ」さんのユーチューブに、「ダマスカス模様の出し方」という動画がアップされています。エッチング処理の様子がよくわかるのでおすすめです。

さいごに

ダマスカス模様は、砥石などで研いでいくと縞模様が分かりにくくなることもあります。
なかには、レーザーで模様をつけただけものもありますので、購入される際には、どのような加工によって模様を出しているかまで確認してみると良いです。